よくある法律相談-書籍の内容が無断掲載されてしまったら

著書が無断転載されたという、ある書籍の著者の方からのよくあるご相談例の紹介です。

相談者は、自分の体験を書籍として出版していました。ところが、ノンフィクション作家と称する方(以下「相手方本人」)が、相手方本人名義の書籍に、相談者の書籍の一部を転載して、出版していました。相談者は、その書籍に自分の書籍の内容が転載されていることに納得せず、ご相談にいらっしゃいました。

検討した事項

このご相談例の場合、相談者が著作者であり、相談者の書籍が著作物であることに全く問題はありません。

問題は、転載されている書籍(以下「相手方書籍」)が著作権侵害に該当するかでした。
転載方法は、そっくりそのまま転載するのではなく、もとの書籍の記述を適宜つなぎあわせ、相手方本人の記述に取り込んで、転載するという方法でした。つなぎあわされた記述を合わせると、相当な分量になります。
しかも、相手方書籍は、 もとの書籍の記述を括弧のように特定して引用するのではなく、一応、参考にしたもとの書籍の著者である相談者と著書の題号の記載があるだけでした。

この場合、相手方書籍は、もとの書籍の翻案権侵害に該当するのか、さらに、引用の抗弁が成立するのかが問題になります。

決定した方針

ご相談例の場合、「風にそよぐ墓標」事件(東京地方裁判所平成25年3月14日判決、知財高裁平成25年9月30日判決)に類似のケースでした。
つまり、相手方書籍への転載は、もとの書籍そのままではありませんでしたが、もとの書籍の表現の特徴的部分を感得させる記述であり、翻案権侵害が成立すると判断することができました。

「風にそよぐ墓標」事件では、適法引用(著作権法32条:「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」)の成否は問題となっていませんが、このご相談例の場合には、問題になり得ると考えました。

しかし、伝統的な引用の要件である、➀引用する著作物と引用される著作物とが明瞭に区別され(明瞭区別性)、➁前者が主で後者が従の関係にあること(主従関係)の2点は、相手方書籍の記述ではあきらかに満たしていませんでした。また、本文中に、もとの書籍の著者と題号には言及されているものの、出所明示(著作権法48条)として合理的な方法とは認められないと考えられました。

加えて、ご相談例の場合、もとの書籍の文章が改変された上、相手方書籍に転載されていましたので、著作者人格権のうち同一性保持権(著作権法20条:「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」)侵害に該当することは明らかでした。

このように相手方書籍に著作権侵害があった場合、相手方書籍の著者のみならず、それを出版している出版社に対しても、出版差止めと故意・過失を前提とした損害賠償請求が認められます。

交渉経過

検討の結果、差止めおよび損害賠償請求が可能であると判断しましたので、相手方と出版社に対して、訴訟外でこれらの請求をしました。
ところが、相手方本人は逃げの一手で、当初、一切回答をしませんでした。この相手方本人の対応は、さらなる相談者の怒りをかうことになりました。
出版社も損を出したくないのか、作った書籍は売り切りたいという意図があり、なかなか請求に応じようとしませんでした。

ねばり強く交渉した結果、解決金を受領し、訴訟を行うことなく解決することができました。ただ、一流の出版社だったら、すぐに回収するのになぁ・・・という釈然としない思いが残りました。