美術の著作物を許諾なく利用できる場合のまとめ

美術の著作物は、保護される著作物として、著作権法に例示されています(10条1項4号)。

著作権法は、さまざまな理由により、著作権が制限される場合を定めていますが、そのなかに次に掲げる美術の著作物特有の例外規定があります。これらに該当する場合には、権利者の許諾なく、著作物を利用できます。

美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条)

美術の著作物・写真の著作物の原作品の所有者またはその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができます。
美術の著作物と写真の著作物の著作権者には展示権が認められていますが(25条)、これらの著作物の原作品が譲渡された場合に、所有者が展示できないのでは意味がありません。この例外は、原作品の所有者に展示を認め、展示権と所有権の調整を図るために設けられた規定です。

公開の美術の著作物の利用(46条)

美術の著作物でその原作品が45条2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているものや建築の著作物は、一定の場合を除いて、利用することが認められています。

裁判例(東京地裁平成13年7月25日判決バス車体絵画事件)は、本条の趣旨について、次のように説明しています。
「美術の著作物の原作品が、不特定多数の者が自由に見ることができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合、仮に、当該著作物の利用に対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることになると、一般人の行動の自由を過度に抑制することになって好ましくないこと、このような場合には、一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること、さらに、多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えないこと等の点を総合考慮して、屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物については、一般人による利用を原則的に自由としたものといえる」。

美術の著作物等の展示に伴う複製(47条)

美術の著作物・写真の著作物の原作品を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説や紹介を目的とする小冊子にこれらを掲載することができます。

裁判例(東京地裁平成元年10月6日判決レオナール・フジタ事件)は、本条の趣旨について、次のように説明しています。
「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、これらの著作物を公に展示するに際し、従前、観覧者のためにこれらの著作物を解説又は紹介したカタログ等にこれらの著作物が掲載されるのが通常であり、また、その複製の態様が、一般に、鑑賞用として市場において取引される画集とは異なるという実態に照らし、それが著作物の本質的な利用に当たらない範囲において、著作権者の許諾がなくとも著作物の利用を認めることとした」。

美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製(47条の2)

美術の著作物・写真の著作物の原作品または複製物の所有者その他の譲渡または貸与の権原を有する者が、その原作品や複製物を譲渡または貸与しようとする場合、当該権原を有する者やその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、一定の制限のもとで複製または公衆送信を行うことができます。
絵画などを取引する場合、それがどのようなものかをわかるようにしなければ取引がなりたたないため、平成21年改正によって設けられた規定です。

そのほか、次に掲げる例外規定に該当する場合にも、権利者の許諾なく、著作物を利用できます。

・私的複製(30条)
・いわゆる写り込みとなる付随対象著作物の利用(30条の2)
・引用(32条)

さらに、意外と見落としがちですが、著作権保護期間が経過している著作物についても、権利者の許諾なく、著作物を利用できるので、注意すべきです。ただ、これも死後50年と思っていると、戦時加算がされる場合がありますので、さらに注意が必要となります。
戦中に取得した著作権は、取得した日が起算点となるので、美術の著作物の創作年を確認する必要があります。