著作者と出版者との契約関係 その1

著作者と出版者との契約

著作者と出版者との間で契約を締結する場合、以下の選択肢があります。

・ ライセンス契約を締結し出版を許諾する(一般契約法および著作権法63条)
・ 複製権等の譲渡契約を締結し出版者が複製権者となり出版する
・ 出版権設定契約(著作権法79条以下)を締結する

 

平成26年著作権法改正前

このうち、出版権設定契約については、平成26年に、著作権法が改正されました。
改正前、出版権は、「設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利」と定義されていたため、紙に印刷して書籍として出版する権利を出版者に付与するだけで、サーバーへの複製や送信する権利を付与することはできず、電子書籍には対応していませんでした。
平成26年改正により、出版権設定契約は、電子書籍の出版にも対応しています。

平成26年著作権法改正後

ところで、電子書籍の流通には、二種類の形態があり得ます。つまり、CD-ROMなどの電磁的記録媒体を頒布して出版されるパッケージ型の電子書籍と、記録媒体を頒布することなく、記録媒体に記録された複製物を公衆送信する方法により頒布される配信型の電子書籍です。

改正後の出版権設定契約は、以下のとおり、これら二種類の形態に対応する規定になっています。
パッケージ型電子書籍の出版権は80条1項1号に定められているので「1号出版権」と呼ばれ、配信型電子書籍の出版権は80条1項2号に定められているので「2号出版権」と呼ばれます。

1号出版権と2号出版権

著作権法の規定 電子書籍の形態
1号出版権 80条1項1号 パッケージ型電子書籍
2号出版権 80条1項2号 配信型電子書籍

 

これによって、出版権者は、出版権設定契約で定めるところにしたがって、紙媒体で書籍として複製する従前の権利のほか、著作物をCD-ROMなどの記録媒体に複製する権利や、記録媒体に記録された複製物を用いて配信する権利を、出版権として持つことが可能となりました。

また、改正前は、出版権者が第三者に出版を許諾することは禁止されていました。
平成26年改正後の法80条3項は、出版権者は、著作権者の承諾を得て、複製または公衆送信を第三者に許諾することができると定めています。

 

法律は変わったが・・・

平成26年改正によって、出版社は、従前のように著作物を紙媒体の書籍として出版することのほか、ライセンス契約や出版権等譲渡契約の他に、出版権設定契約を利用して、出版社が自ら電子書籍を発行し配信することも、プラットフォームに電子書籍の発行や送信を許諾することもできるようになりました。

ただ、従来の出版権設定契約もあまり活用されていたとはいえませんし、改正後、出版権設定契約が活用されるようになったともいえないようです。
日本の場合、諾成契約(書面などの要式を必要とせず、当事者の意思の合致で契約が成立する)が原則であり、著作者と出版者との契約も例外ではありません。

そこで、そもそも、著作者と出版者との間で契約書が作成されないという根本的な問題があります。
出版に限らず、多くの場合、著作者とライセンシーとの間の揉めごとは、契約書により契約が明確に定められていないことを原因として生じています。
外国では、著作者の保護のため、契約の書面化を定める例もありますが、見習う必要がありそうです。

 

著作者と出版者との契約関係その2 各契約の違い