商標権侵害になりそうでならない場合②ードメイン名としての利用

他人の商標をドメイン名として使っていた場合、商標権侵害を肯定した事案をコラム(「ドメイン取得の際も登録商標に注意!」)で紹介しました。
ところが、ドメイン名としての使用が商標権侵害になるかというと、必ずしもそういうわけではありません。以下の裁判例(東京地裁平成17年3月31日判決tabitama.net事件)は、商標権侵害を否定した事案です。

事案の概要

原告は➀指定役務を「広告」(35類)、「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」(42類)等とする、「旅のたまご」の標章と、➁指定役務を「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」(42類)等とする、ひらがなで「たびたま」と欧文字「TABITAMA」を2段に記載してなる標章の商標権者です。
被告は、「旅んこ玉っち」の名称でウェブサイトを開設し、ホテル、旅館等の予約等のサービスを行い、サイトのドメイン名として「tabitama.net」を使用していました。
そこで、原告が、被告に対し、ドメイン名の使用が原告の商標権を侵害すると主張して、ドメイン名の使用差止と損害賠償を請求しました。

判旨

本件での問題は、ホテル、旅館等の予約等のサービスを行い、サイトのドメイン名として「tabitama.net」を使用していることが、原告の商標権の指定役務である、「広告」または「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」と同一または類似の役務といえるかどうかです。

裁判所は、指定役務としての「広告」について、典型的には、広告代理店業務を指し、広告物を掲示あるいは頒布し、広告主から報酬を受け取る業務も含むと判断しました。その上で、宿泊施設の名称、所在地、設備の内容、宿泊値段、サービスの内容等の情報を顧客に提供する行為は、広告に該当せず、類似もしないと判断しています。その理由として、このような情報提供は、宿泊施設の提供の契約の媒介または取次の業務を行うにあたって必然的なので当該役務の一部を構成することや、仮に、これが「広告」に該当すると、このような業務を営む者は35類の「広告」も指定役務として商標登録しなければならないことになることなどが述べられています。

他方、裁判所は、指定役務としての「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」について、被告がサイトを開設し、宿泊施設を掲示し、閲覧者がそれを選択肢、予約するかどうかを判断する上で必要な情報を提供する行為は、宿泊施設の利用者が宿泊施設との間で宿泊契約を締結するための媒介を行っているので、「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の役務に該当すると判断しています。
結論として、被告サイトでの情報提供は、「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に該当するが、「広告」には該当しないと判断しています。

原告は、①の「旅のたまご」商標では、「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務としていましたが、②の「たびたま」商標では指定役務としていませんでした。そのため、「たびたま」と「tabitama」の同一性・類似性は問題とならず、「旅のたまご」と「tabitama」の類似性のみが問題とされました。そして、両者の類似性は否定されましたので、商標権侵害は否定されることになりました。

解説

本件は、原告が、仮に、②の「たびたま」商標について、42類の「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務とする商標権を取得していれば、被告のドメイン名の使用は商標権侵害に問われたと考えられます。
本判決で注目すべき点は、「広告」という指定役務が、何を指すかを明示している点です。判決によれば、「広告」を指定役務として商標権を取得していたとしても、使用者が「広告」以外の本業で広告を出している場合には、商標権侵害に該当しないという結果になります。

実務上の注意

ドメイン名を取得する場合には、ドメイン名の記載でも、商標権侵害に該当することがありうることを考慮する必要があるのですが、必ずしも商標権侵害が肯定されるとは限らないことに注意する必要があります。
また、商標権を取得する場合に、どのような指定商品または指定役務で出願するかは、その商標権の権利範囲を定める上で重要ですので、出願の際にも、その点を熟慮すべきです。

 

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